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東京地方裁判所 昭和60年(特わ)1848号 判決

本籍

京都市山科区桁鼻西ノ口町一二番地

住居

同市中京区油小路通御池下る式阿弥町一三七番地の三

御池ロイヤルマンション二階A号室

不動産取引業

高坂貞夫

昭和五年一二月一八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人を懲役二年四月及び罰金一億二〇〇〇万円に処する。

二  未決勾留日数中五〇日を右懲役刑に算入する。

三  被告人においてその罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、京都市中京区油小路通御池下る式阿弥町一三七番地の三に居住し、不動産取引業などを営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、昭和五七年中に株式会社太平洋クラブ(以下「太平洋クラブ」という。)が所有する神戸市北区八多町所在の山林(いわゆる屏風物件)一一一筆につき、株式会社広洋(代表取締役岸廣文)との間で売買を仲介するなどしたことにより、同年分の分離課税による土地の譲渡等に係る事業所得金額が五億九八八九万五七五〇円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、太平洋クラブが被告人に支払うべき土地売買契約の仲介手数料二億円を、同会社が名目上の仲介者である新日興開発株式会社に支払ったもののように仮装させてこれを現金で受領し、また、株式会社広洋から土地売買契約の仲介手数料として受領した四億円を京都府民信用組合西院支店(現、京都信用金庫西院支店)に設定した仮名預金口座に入金するなどしてその所得を秘匿した上、所得税の納期限である昭和五八年三月一五日までに、同市中京区柳馬場通二条下る等持寺町一五番地所在の所轄中京税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、昭和五七年分の所得税四億七八一八万五一〇〇円(別紙(二)脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書一六通

一  大元良一(謄本)、岸廣文(昭和六一年七月二一日付((謄本))、同年八月七日付((謄本))、同月一一日付二通)、對馬邦雄(謄本)、伊坂重昭、大野伸幸(謄本)、畠山忍(三通)、篠竹芳長、高坂唯子、入柿清彦、宮崎一雄、上山秀樹、田原千晴、成瀬泰三、奥村昭、川上桂司、小濃時光、宮田武男及び建島義久の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  仲介料収入調査書

2  旅費交通費調査書

3  接待交際費調査書

一  検察官(二通)及び検察事務官作成の各捜査報告書

一  収税官吏作成の検査てん末書二通

一  国税査察官作成の査察官報告書二通

(法令の適用)

一  罰条

所得税法二三八条一、二項

二  刑種の選択

懲役刑と罰金刑の併科

三  未決勾留日数の算入

刑法二一条

四  労役場留置

刑法一八条

(量刑の事情)

本件は、不動産取引業などを営む被告人が、神戸市北区所在の山林(いわゆる屏風物件)を太平洋クラブにおいて株式会社広洋に売却するにあたり、当該売買を仲介し、両者から仲介手数料を受領したが、これにより、昭和五七年分の自己の所得税に関し、分離課税による土地の譲渡等に係る事業所得金額が五億九八八九万円余であったにもかかわらず、右手数料のうち太平洋クラブから受領した二億円については、同社をして前記売買の仲介手数料を新日興開発株式会社に支払ったように仮装させていわゆる裏金として受領し、同様に、右広洋から受領した四億円を仮名預金口座に入金するなどして右の所得を秘匿した上、法定納期限までに所轄税務署長に所得税確定申告書を提出せず、もって所得税四億七八一八万円余をほ脱したという事案である。そのほ脱は巨額である上、税務調査の機会さえ看過させ易い、いわゆる無申告ほ脱犯であって、ほ脱の具体的方法も前記のとおり巧妙であるが、太平洋クラブから受領した二億円は、被告人の方から裏金で支払ってくれるように要求し、また、前記四億円を入金した仮名の預金口座の名義人を「同和警備保障渡辺彰」として、いわゆる同和団体の関係者の口座であるかのように装うなど、全体としての犯情も悪質である。更に、被告人は、昭和三〇年ころ篠原会の組員となったのを皮切りに、同五〇年ころ同会の舎弟頭、同五八年ころ会津小鉄会総裁付などを経て、現在、会津小鉄会常任理事並びに会津小鉄会高坂組組長の地位にある者であるが、永年にわたり多額の所得がありながら、一切確定申告をせず、脱税を繰り返してきたことが窮われること、昭和三九年に傷害罪等により懲役四月(三年間執行猶予)に、同四二年に恐喝罪により懲役八月に、同五一年に談合罪等により懲役一年(三年間執行猶予)及び罰金二〇万円にそれぞれ処せられているほか、罰金の前科五犯を有していることなどをも併せ考慮すると、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。

他方、本件で起訴されている分離課税による土地の譲渡等に係る事業所得以外の昭和五七年分の所得については詳らかにしていないものの、本件起訴分についてはその所得の存在を素直に認め、税務署に対し申告した上、納税資金の捻出に努力中であることが認められること、今後は所得があった場合には税申告を行う旨述べていること等被告人に斟酌すべき事情も認められるので、これらを総合考慮して主文のとおり量定した。

(求刑 懲役二年六月及び罰金一億五〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 石山容示 裁判官 鈴木浩美)

別紙(一)

修正損益計算書

高坂貞夫

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

〈省略〉

別紙(二)

脱税額計算書

57年分

〈省略〉

(注)No.10の算出税額は、租税特別措置法第28条の4第1項、同法施行令第19条第3項を適用

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